前立腺がんとは?-知っておきたい症状と早期発見のための検査
男性がもっともかかりやすいがんである、前立腺がん。近年、前立腺がんを発症する人は急増しています。早期に発見・治療すれば完治する可能性が高いことから、前立腺がんの発症が増える50歳以降の男性は定期的に検診を受けることが重要です。今回は、前立腺がんで現れる症状や早期発見に有用な検査などについて詳しく解説します。
前立腺がんとは、どんな病気?
前立腺は男性のみにある臓器で、膀胱のすぐ下に位置し、膀胱から続く尿道を取り囲むように存在します。前立腺には、精液の3分の1を占める前立腺液を分泌するはたらきがあります。前立腺液は精子に栄養を与え、精子を保護して活発にさせる物質が含まれています。
前立腺がんは、前立腺の正常な細胞ががん化し、無秩序に増殖することで発生します。前立腺がんの多くは数十年の年月をかけてゆっくり進行すると考えられており、前立腺がんを発症しても、診断されることなく他の病気で亡くなることも少なくありません。
前立腺がんは男性で最も多いがんであり、男性の9人に1人は生涯のうちに前立腺がんにかかると推定されています[※1]。前立腺がんにかかる人の数は年々増加し続けており、増加率は他のがんよりも高くなっています[※2]。前立腺がんは高齢者に多いがんのため、急速な高齢化が前立腺がんの患者数増加の一因と考えられています。
一方、前立腺がんで死亡する人の数は緩やかな増加にとどまっており、高齢化の影響を除いた死亡率は減少傾向にあります[※3]。がんが前立腺の内部にとどまっている早期の段階で発見し、適切な治療を受けた場合、5年相対生存率は100%とされています。検査による早期発見が可能となってきたことが死亡率減少に寄与していると考えられ、がん検診の受診がいかに重要かがうかがえます。
前立腺がんにかかりやすい人の特徴とは?
前立腺がんにかかる割合は50歳を過ぎると高くなり、70代でピークを迎えます[※3]。前立腺がんの発症には遺伝的な要因が関係していると考えられており、親や兄弟に前立腺がんの患者さんがいる場合、前立腺がんを発症するリスクが高くなるといわれています。
そのほかの要因として、肥満や喫煙が前立腺がんの発症リスクを高めると報告されています。欧米人ではアジア人と比べて前立腺がんの発症率が約10倍高いとされており、食生活の欧米化も前立腺がん増加に影響を与えていると考えられています[※4]。また、食事に関してはカルシウムの過剰摂取(1日に2,000mg以上)が前立腺がんのリスクを高めるという報告もあります。カルシウムのサプリメントなどを摂っている場合は、適量を守るようにしましょう。
前立腺がんを予防するには、禁煙し、動物性脂肪の摂取を控えることが大切です。大豆製品に多く含まれている大豆イソフラボンは乳がんの予防に役立つとされていますが、前立腺がんのリスクを低下させる効果も期待できるため、普段の食事で積極的に大豆製品を摂るとよいでしょう。
前立腺がんに特有の初期症状はある?
前立腺がんは、早期の段階では自覚症状がないことがほとんどです。がんが大きくなると尿道が圧迫されるため、尿が出にくい、排尿の回数が多い、残尿感、尿失禁などの排尿の症状が出ることがあります。さらにがんが膀胱や尿道、直腸などの周囲の臓器に広がると、血尿や便秘などの症状が現れます。また、がんが骨に転移すると、腰痛などの痛みが起こることもあります。
前立腺がんでみられる排尿の症状は、良性の病気である前立腺肥大症でも認められる症状です。前立腺肥大症も高齢になるにつれてかかりやすくなる病気であり、前立腺がんと同時に発症することもあります。前立腺がんだけに見られる特有の症状はないため、気になる症状がある場合は、診断のために検査を受けることが重要です。
- ・尿が出にくい
- ・頻尿(排尿の回数が多い)
- ・残尿感
- ・尿失禁
- ・血尿
- ・便秘
- ・腰痛
前立腺がんを早期発見するための検診・検査
前立腺がんを早期発見するために最も有用なのがPSA検査です。PSAとは、前立腺の細胞から分泌されるタンパク質のことを指します。正常な状態であれば血液中に存在する量はごくわずかですが、前立腺がんがあると前立腺の組織が壊れ、血液中に取り込まれるPSAの量が増加します。この仕組みを利用して、血液検査で前立腺がんを見つけ出すのがPSA検査です。
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前立腺がんは、国の指針にもとづいて実施されるがん検診はありませんが、住民検診としてPSA検査による前立腺がん検診を実施している自治体もあります。名古屋市でも50歳以上の男性を対象に、ワンコイン500円の自己負担金で前立腺がん検診を行っており、当クリニックでも受診いただくことが可能です。
PSA検査でがんが疑われた場合、直腸診(医師が肛門から指を挿入して前立腺の状態を確認する検査)や、超音波(エコー)検査(超音波を発する器具を肛門から挿入して前立腺の大きさや形を調べる検査)を行います。
がんかどうか診断を確定するには生検(前立腺の組織を採取して顕微鏡で調べる検査)が必要になりますが、生検は患者さんの身体的な負担もあるため、近年は生検前にMRI検査を行うことが増えてきています。MRI検査は磁気を利用して体内の様子を画像化する検査で、放射線による被ばくの心配がなく、痛みを感じることもありません。前立腺がんの診断において最も信頼性の高い画像検査と位置付けられており、MRI検査を先に行うことで生検が必要かどうかを選別するのに役立つとされています。
PSA検査とMRI検査を組み合わせれば、前立腺がん発見の精度はより高まります。50歳以上で前立腺がんの検査を受けたことがない方や家族に前立腺がんの患者さんがいる方は、PSA検査とともにMRI検査の受診を検討してもよいでしょう。MRI検査は検査着を着たまま行えるので、恥ずかしさもありません。
当クリニックでは、各種人間ドックのオプションとしてPSA検査、下腹部MRI検査を受診いただけるほか、両検査が含まれているエグゼクティブコースもご用意しております。前立腺がんについて詳しく調べたいという方は、ぜひお気軽にご相談ください。
【関連コラム】
このほかにも、前立腺がんを調べるのに有用な全身MRI検査[DWI法]について解説したコラムをご用意しております。
参考文献
- (※1)国立がん研究センター, がん情報サービスがん統計 最新がん統計
- (※2)国立がん研究センター, がん情報サービスがん統計 年次推移
- (※3)国立がん研究センター, がん情報サービスがん統計 がん種別統計情報 前立腺
- (※4)日本泌尿器科学会, 前立腺癌診療ガイドライン2016年版
- (※5)EBM普及推進事業, Mindsやさしい解説 前立腺がん
人間ドックコース・料金
当クリニックでは皆さまのご要望に柔軟に対応できるよう、多様なコースをご用意しています。
どのコースを受けたら良いかわからない場合は、お気軽にご相談ください。
記事監修
森山 紀之
医療法人社団進興会 理事長
1973年千葉大学医学部卒。
元国立がん研究センター がん予防・検診研究センター センター長、東京ミッドタウンクリニック常務理事 兼 健診センター長を経て、現職。