痛風だけじゃない!?尿酸値が関係する病気とその予防法
人間ドックや職場の健康診断で実施されることの多い尿酸値の検査。尿酸値が高い状態が続くと痛風になることはよく知られていますが、痛風だけでなく、命にかかわる重大な病気につながるおそれもあります。今回は、尿酸と病気の関係や尿酸値を改善するための生活習慣のポイントについて詳しく解説します。
目次
そもそも、尿酸って何?
尿酸とは、プリン体という物質が肝臓で分解されるときに作られる老廃物(代謝産物)です。からだの細胞内には、遺伝情報を伝える役割をするDNAやRNAといわれるものが存在しますが、これらを構成する成分はプリン体です。体内では古くなった細胞が新しい細胞に置き換わる新陳代謝が常に起こっており、その過程でできたプリン体は肝臓に送られます。また、プリン体は植物や動物の細胞内にも存在するので、食生活からも体内に取り込まれます。
肝臓でプリン体が分解されてできた尿酸は、一時的に体内に蓄えられたあと、尿や便とともに排泄されます。健康な人では、体内で作られる尿酸量と排泄される尿酸量はほぼ一定に保たれています。しかし、プリン体を含む食品・飲料の過剰摂取などで尿酸の産生量が増えたり、腎機能の低下などで尿酸の排泄量が減ったりすると、そのバランスが崩れ、体内に蓄えられる量の限界を超えてしまいます。
尿酸は血液中に溶けて存在しており、血中濃度が7.0mg/dLまでであれば血液から尿酸があふれ出してしまうことはありません。しかし、それ以上の濃度になると血液に溶け切らない尿酸が結晶化し、尿酸塩として関節に溜まるようになります。この尿酸塩を血液中の白血球が異物とみなして攻撃すると、関節に炎症が起こって痛みが生じます。これが、痛風発作(急性関節炎)が起こるしくみです。
尿酸値が高い・低いと、どんな病気になりやすい?
尿酸値とは、血液中の尿酸の濃度のことをいいます。基準値は7.0mg/dLで、それより高い場合は高尿酸血症と診断されます。高尿酸血症になると、足の親指の付け根や足首、膝などの関節に尿酸塩が溜まり、痛風発作を発症しやすくなります。尿酸値が基準値を超えるとただちに痛風になるわけではありませんが、8.0、9.0mg/dLと数値が上がるにつれて痛風発作が起こるリスクは高まります。
高尿酸血症が長期化すると、尿酸が皮下組織や関節に沈着して痛風結節というコブのようなものができたり、腎臓に沈着して痛風腎を引き起こし、腎機能が低下したりすることもあります。また、尿中の尿酸濃度が高くなると尿酸が結晶化し、尿路に石ができる尿路結石を発症しやすくなります。
さらに、高尿酸血症の患者さんでは糖尿病や脂質異常症、高血圧などの生活習慣病や慢性腎臓病を合併することが少なくないといわれています。こうした生活習慣病や慢性腎臓病を放置していると、脳卒中や心臓病、腎不全などの重大な病気につながります。尿酸値が高い状態は、痛風のみならず命にかかわる病気につながるおそれがあることを、しっかり理解しておくことが大切です。
一方、尿酸値が基準値よりも低い場合は、低尿酸血症と診断されます。低尿酸血症は腎臓における尿酸の排泄が過度に起こることが主な原因です。尿酸が少ないこと自体が何らかの症状を引き起こすことはありませんが、低 尿酸血症の患者さんでは激しい運動後に急性腎不全が起こったり、尿路結石になったりすることがあるため注意が必要です。
高尿酸血症や痛風になりやすい人の特徴とは
「ぜいたく病」と呼ばれたりする痛風は1950年頃まで珍しい病気でしたが、食生活が豊かになるにつれて患者数は増加し続け、今では100万人を超えるといわれています。症状のない高尿酸血症の人は1,000万人に達すると推計されており、痛風の患者数は今後もますます増えると考えられます。
高尿酸血症は女性より男性に多く、成人男性の約25%に認められます。これは、女性ホルモンに腎臓からの尿酸の排泄を促す作用があるためです。高尿酸血症を引き起こす主な要因は生活習慣にあり、尿酸のもとになるプリン体を多く含む食品・飲料をよく摂る、水分の摂取量が少ない、激しい運動を頻繁にするなどの生活習慣が高尿酸血症のリスクを高めるといわれています。
ビールにはプリン体が多く含まれていることはよく知られていますが、ビール以外のお酒ならどんなに飲んでも大丈夫というわけではありません。実は、アルコール自体に尿酸値を上げる作用があり、どんなお酒でも飲みすぎは高尿酸血症の原因になるのです。
高尿酸血症になりやすい人の特徴
- 20代以上の男性
- プリン体を多く含む食品(レバーや魚の干物など)をよく食べる
- プリン体の多いビールをよく飲む
- 飲酒習慣があり、アルコールの摂取量が多い
- 果糖を多く含む清涼飲料水をよく飲む
- あまり水分をとらない
- 激しい無酸素運動をする習慣がある
- ストレスを抱えている
- 血縁者に痛風の人がいる
- 肥満(BMI25以上)
高尿酸血症や痛風を予防するために大切なこと
高尿酸血症や痛風を予防・治療するには、生活習慣を見直すことが何より重要です。痛風を発症した人では、痛みや腫れを抑える薬や尿酸値を下げる薬を使った治療も行いますが、根本的な原因である生活習慣を改善しなければ痛風は治せません。
尿酸値を下げるための生活習慣のポイント
- プリン体を多く含む食品や飲料の摂取を控える
- 海藻や野菜を多く摂る
- 肥満のある人は摂取エネルギーを適正化し、肥満の改善を目指す
- 飲酒習慣のある人は節酒・禁酒する
※1日の飲酒量は日本酒なら1合、ビールなら500mL、ウイスキーならダブル1杯(60mL)を目安にする - 十分な水分をとる。糖分の多い清涼飲料水ではなく、水などで水分補給する
- ベンチプレスなどの激しい無酸素運動ではなく、ウォーキングなどの有酸素運動を定期的に行う
多くの場合、高尿酸血症になってもただちに症状が現れるわけではありません。ただ、尿酸値が高い状態が続くと痛風のみならず命にかかわる重大な病気につながるおそれがあるため、生活習慣に気を付けながら定期的に検査を受け、自分の尿酸値を把握しておくことが大切です。
20歳以上の男性で尿酸値の検査を受けたことがない人は、一度検査を受けておくとよいでしょう。特に血縁者に痛風を発症した人がいる場合は、若いうちでも検査を受けることをおすすめします。当クリニックでは、健康診断や人間ドックの一環として尿酸値の検査(血液検査)を実施しており、尿酸値が高い方に対しては、外来での診療やフォローアップも行っています。将来的に命に関わる病気を避けるためにも、尿酸値が気になる方は、ぜひ当クリニックまでご相談ください。
参考文献
- 藤森新, 日本内科学会雑誌 2018; 107: 458-463.
- 厚生労働省 e-ヘルスネット 高尿酸血症
人間ドックコース・料金
当クリニックでは皆さまのご要望に柔軟に対応できるよう、多様なコースをご用意しています。
どのコースを受けたら良いかわからない場合は、お気軽にご相談ください。
記事監修
森山 紀之
医療法人社団進興会 理事長
1973年千葉大学医学部卒。
元国立がん研究センター がん予防・検診研究センター センター長、東京ミッドタウンクリニック常務理事 兼 健診センター長を経て、現職。